石垣の上の水田と畦の端に見える地下水路の開口部、背後の青山島の海岸。
石垣の上の水田と、縁に現れる地下水路の開口部。
まちの案内青山島のクドルジャンノンを、農業遺産の肩書きだけで終わらせず、石垣、水路、土の層、集落の景観として自分の目で理解するための視点を得る。

青山島のクドルジャンノンは、石垣の上に水田を載せ、その下に石積みの地下水路を通すことで灌漑と排水を成り立たせてきた農業遺産である。畦の開口部、土の層、集落の石文化を手掛かりに、この島ならではの稲作の仕組みを読み解く。

青山島のクドルジャンノンを前にすると、まず目に入るのは石垣の上に続く水田である。けれども、この景観をただ「石の棚田」と呼ぶだけでは、島が積み重ねてきた工夫の中心を取り逃がす。水田の縁に見える開口部は、石を組んだ地下水路へつながる入口であり、地表の田を支える見えない構造を示している。大小の石で造られた水路は、田に水を届けるだけでなく、余分な水を逃がす役目も担う。土壌と水利に恵まれない土地で稲作を続けるため、石、水、土を一つの仕組みにしたところに、青山島らしさがある。この水田は、平たい大きな石を水路の天井として渡し、その上に赤土と耕作土を重ねる構造でつくられている。上から見れば田であっても、下には水の通り道があり、石積みと土の層が互いを支える。旅の途中で景観を眺める際も、畦の端、石垣の積み方、集落へ続く低い石壁に視線を移すと、農地だけを切り離さずに島の暮らしの輪郭を読み取りやすい。

案内 01

農業遺産として読む青山島の水田

クドルジャンノンは、土壌と水利の条件が厳しい土地でも米をつくるために発達した水田システムである。FAOの説明では、この仕組みは16世紀から20世紀半ばにかけ、米の生産を増やす目的で自然環境を組み替えながら築かれてきた。したがって、目の前の石垣は古い景観の飾りではなく、耕作を成立させる技術の一部として読む必要がある。石をどこに積み、水をどこへ通し、その上にどのように土を載せるかという選択が、限られた土地での稲作を支えてきた。

青山島のクドルジャンノンは2013年、韓国で最初の国家重要農業遺産に指定され、翌2014年にはFAOの世界重要農業遺産システムにも認定された。この二つの位置付けは、単に眺めが美しいからではなく、農業の仕組み、環境への働き、地域に受け継がれた知識を合わせて評価する視点を促す。韓国の農業遺産として出発した島の水田を世界的な枠組みで見るときも、まずは土地の不利さに対して水と石をどう使ったのかを確かめることが、理解の出発点になる。

青山島の水田を農業遺産として捉える際には、指定年を単なる年表にせず、何が評価の対象になったかへ視線を向けたい。2013年の国家重要農業遺産指定と、2014年のFAOによる世界重要農業遺産システム認定は、稲作を増やすために長い時間をかけて組み立てられた仕組みを評価の軸に置く。16世紀から20世紀半ばまでの形成過程には、恵まれない土壌や水利に向き合い、自然環境を組み替えつつ米づくりを続けた蓄積がある。年代の並びは、技術と土地利用の積み重なりを考えるための手掛かりになる。畦や石積みを眺めるときは、土地の条件に応じて生産を成立させた知恵の結果として、その重なりを読み取りたい。

案内 02

畦の端に現れる地下水路

この水田を一般的な棚田と見分ける手掛かりは、石垣の上に田があることだけではない。水田の縁に露出する地下水路の開口部に注目すると、地下で水を動かす構造が景観の一部として現れる。大小の石を積んだ水路は灌漑と排水の双方を担い、その上には大きく平たい石が天井のように渡される。水田の表面だけを追うのではなく、石積み、水路、開口部を同じ視野に置くことで、この農法の固有性が具体的になる。

天井石の上には、水分が流れ出るのを抑える赤土の層が置かれ、さらに稲を育てる耕作土が重ねられる。石の空間、水の通り道、土の層が順番に重なるため、田は平面の農地であると同時に、断面に技術が現れる構造物でもある。日本の旅行者が「棚田」という親しみのある言葉から入るとしても、青山島では石組みの下に水路がある点まで見なければ、同じ語だけでは捉えきれない。比較のための比較ではなく、何を見ればこの場所の仕組みが読めるかを示す差として受け取りたい。

畦の端で見える開口部を起点に、目に見えない断面を想像すると構造がつながる。開口部の奥には大小の石で組まれた地下水路があり、そこでは灌漑と排水の二つの役割が一体になっている。その上部には大きく平たい石が渡され、さらに赤土と耕作土が順に重なる。水を田へ導く働きと余分な水を排する働きが一つの地下構造に収められている点にも、石の組み方と土の重なりを別々に見ない理由がある。水を運ぶ空間を石で支え、その上に稲を育てる土を保つという配置は、石垣の高さだけでは分からない。一般的な棚田との違いを考えるなら、表面の段差ではなく、水田の縁に現れる開口部と地下の水の通り道を手掛かりにするとよい。

平たい天井石の下に続く石組み地下水路と、その上に重なる土の層。
石、水路、土の層が重なって水田を支える。

案内 03

石垣、集落、海岸をつなぐ景観

クドルジャンノンの石積み水田は、田だけで完結する景観ではない。石垣の上の水田は、周囲の集落や海岸、島で続いてきた暮らしと結び付き、青山島特有の文化的景観を形づくる。島では家屋、貯蔵場所、道や畑の境界、防風のための低い石垣にも石が使われてきた。この石積み文化があるからこそ、水田の地下水路も孤立した土木技術ではなく、島の素材を使い分ける生活の延長として理解できる。

水の管理にも、構造だけでは説明できない共同の側面があった。近隣の水田を耕す五、六人ほどの住民集団が貯水と水路を管理し、その構成員はボジャギンと呼ばれたという。水路は石で固定された設備であると同時に、隣り合う田をどう保つかという地域の関係にも支えられていた。石垣、水田、海岸を一つの構図で眺めるとき、写真映えする一場面として消費するのではなく、農地と集落のつながりを想像する余地が生まれる。

石は水田の擁壁だけに用いられた素材ではない。青山島では、家屋や貯蔵場所、道と畑の境界、風を防ぐ低い石垣にも石積みが用いられてきた。そのため水田の石組みを眺めるときには、集落に点在する石の使われ方と海岸に近い景観を切り離さずに考えられる。石垣の上に田が載る配置は、農地だけの工夫ではなく、島の暮らしと結び付いた文化的景観の一部である。さらに水をため、水路を管理したのは近隣の田を耕す五、六人ほどの住民集団で、構成員はボジャギンと呼ばれた。水の流れを保つ役割にも、隣り合う土地を支える共同の仕組みが重なっていた。石積みの連なりを見れば、農法と生活の場が同じ素材を通じて結ばれていたことが分かる。

石積み水田、島の集落の低い石壁、海岸を一続きに捉えた青山島の景観。
水田の石積みは、集落と海岸へ続く島の石文化の一部でもある。

案内 04

訪問前に資料の射程を確かめる

FAOは、石の隙間や水路を通る水が爬虫類、両生類、甲殻類の生息環境となり得ること、石積み水田が土壌流出の抑制と水の浄化にも寄与すると説明している。農業遺産を理解する視点は、米を育てるための水利だけに限られない。地下水路の存在は、石と水の関係を通じて土壌や生きものにも関わる。だからこそ、畦や石垣を「古いもの」として一括りにせず、今も複数の働きを持つ景観として丁寧に見る姿勢が求められる。

一方で、今回確認した一次資料は水田システムの仕組みと価値を主に扱っており、現在歩ける区間、立入条件、船便、島内交通、料金、営業時間、予約の可否を裏付けるものではない。これらを推測で補うと、せっかくの農業遺産の説明も不確かな旅行案内になってしまう。青山島を訪ねる計画では、ここで得た構造と景観の見方を携えつつ、出発前に運航主体や自治体、現地管理者の最新案内で当日の条件を別途確認したい。確認してから向かうことが、島の農地を生活の場として尊重する第一歩になる。

農業遺産としての評価は、農地の生産性だけを切り取るものではない。FAOの説明では、石の隙間と水路を通る水は、爬虫類、両生類、甲殻類にとっての生息環境になり得る。また石積み水田には、土壌が流れ出るのを抑え、水を浄化する働きもあるとされる。2013年に韓国で最初の国家重要農業遺産となり、翌2014年に世界重要農業遺産システムへ認定された背景を考えるときも、この複数の役割を合わせて見ることが大切だろう。石垣と水路は稲作のための構造であると同時に、水や土、生きものの関係を支える場でもある。石を積み、水を通す仕組みの価値は、こうした働きが重なり合う点にも表れている。

公式情報

FAO GIAHS

Food and Agriculture Organization of the United Nations

クドルジャンノンの地下水路、土の層、環境への働き、世界重要農業遺産としての説明を確認できる。

K-Agro Heritage

韓国農林畜産食品部

青山島のクドルジャンノンが韓国の国家重要農業遺産として位置付けられる背景を確認できる。

Corrections / contact